(2024年06月13日更新)
プラン・インターナショナルの国際人道ディレクター、医師のウニ・クリシュナンが、2024年5月、スーダンからの難民を多数受け入れているチャドを訪れました。スーダンにおける紛争が子どもたちにもたらす壊滅的な影響についてお伝えします。
難民キャンプ内に開設された学習センターにて
チャドとスーダン国境近くのアドレにて
「銃撃戦や暴徒が押し寄せてきたとき、選択肢はほかにありませんでした」とアリヤさん(仮名)は振り返ります。彼女は家族の安全を守るため、ダルフールの自宅を離れるしかありませんでした。それは恐怖のなかでの決断でした。
2023年4月15日に軍と準軍事組織の間で武力衝突が勃発してから1年、スーダンは世界で最も深刻な危機に直面しています。銃撃戦と暴力によって、シンガポールとカタールの人口を合わせた900万人が避難し
※1、スーダンは世界最大の避難民危機に陥っているのです。
2023年末までに、以前の危機からの200万人を含めた500万人近くの子どもが強制的に避難させられました
※2。ここ数日、北ダルフール、エルファシャー地域で戦闘が激化、さらに多くの人々が命を落とし、住む場所を追われています。
- ※1 Sudan Humanitarian Update (4 February 2024), OCHA
- ※2 Sudan: One Year of Conflict - Key Facts and Figures (15 April 2024)
紛争を始めるのは子どもたちではないのに、最大の犠牲を払うのは子どもたち
スーダンとチャドの国境近くにある町アドレで、冒頭で紹介したアリヤさんが、自身が経験した苦難の旅について語ってくれました。
この11日間、アリヤさんと4人の幼い子どもたちは、国内避難民キャンプや仮設シェルターを転々とした末、ついにチャドに到着しました。3人の幼い子どもたちの手を引きと生後4カ月の息子をぼろぼろのおんぶ紐で背負い、休みなく歩き続けたといいます。長旅に疲れ果てている様子でした。
日中の灼熱を避けるため、夜間に移動していましたが、子どもたちは重度の脱水症状を起こしていました。私が、アリヤさんと子どもたちに会った日の気温は42度でした。
国連は、過去13カ月間にチャドに到着したスーダン難民の88%が子どもと女性であると推定しています。子どもたちは空腹、脱水、栄養不良、そして病気を抱えて到着しています。私が会ったなかにも、栄養不良と極度の疲労に苦しむ子どもたちがいました。遊ぶこともできないほど衰弱し、ほとんどの時間を寝て過ごしていました。
紛争が子どもに与える影響は甚大で、広範囲に及んでいる
スーダンでは、約70万人の子どもが重度の急性栄養不良を患っており、1400万人の子どもが支援を必要としています
※3。数千人が死傷し、緊急に保護される必要があるとされています。子どもが武装勢力に勧誘されているという報告もあります。チャドでは、女の子たちが性暴力の被害にあったり、目撃したりしたことがプラン・インターナショナルにも報告されています。
スーダンの人口約2500万人(アイルランドの人口の約5倍)が人道支援を必要としています
※4。公衆衛生サービスの中断により、病気を患う人数も増加しています。国際通貨基金(IMF)は、2024年のスーダンのGDPが18.3%縮小すると予測しました
※5。
食料価格の高騰も懸念されています。国連世界食料計画(WFP)は、主要穀物の価格が昨年より200%上昇し、オランダの人口に匹敵する1800万人近くが急性食料不安に直面すると警告しています
※6。
このうち490万人が「飢饉の瀬戸際にいる」と、総合的食料安全保障レベル分類(IPC)の専門家は警告。紛争の影響が地域全体の農業にも影響を及ぼしていることが、食料不安を悪化させているのです。
国連職員の話によると、たった一日で1000人以上の人々が国境を越えてアドレに流入したこともあるそうです
※7。そのうちの90%は食料不安のためにスーダンを離れたということです。
飢餓と暴力は致命的な組み合わせとなります。アドレのアブテンゲ難民キャンプで、衛生用品や生理用品が入った尊厳キットを受け取ったスーダン難民の女の子が、自身が受けた残忍な性暴力の体験を話してくれました。国連の専門家は、性暴力を含むジェンダーに基づく暴力が、女性と女の子たちを恐怖に陥れる紛争の武器として蔓延していることに警鐘を鳴らしています。
国連と人道支援団体がスーダンのために求めている27億ドルのうち、わずか12%しか集まっていません。この前例のない危機を打開するためには、即時の行動が不可欠です。国際社会は、残虐な紛争下にあるスーダンの子どもたちに対しもっと心を寄せてほしいと思います。紛争地域で暮らす子どもたちの心には、計り知れない苦しみが刻まれているのです。
- ※3,4 Sudan: Key Facts and Figures - One Year of conflict, OCHA
- ※5 Transcript of Middle East and Central Asia April 2024 Press Briefing, IMF
- ※6 Sudan, WFP
- ※7 ‘Hell on Earth’ as violence escalates in Sudan’s el-Fasher, Al Jazeera News Agencies
苦難が続く難民たちにとっての安全地帯
残忍な紛争による苦しみは、スーダンの国境を遠く越えた先にも及んでいます。この13カ月で180万人の人々が、中央アフリカ共和国、チャド、エジプト、エチオピア、南スーダン、ウガンダといった近隣諸国に避難しました。チャドだけでも、過去12カ月間にスーダンから59万2000人を受け入れています。
アリヤさんによれば、彼女の2人の子どもは事あるごとに叫び、睡眠中に目を覚ましては母親にしがみつくそうです。彼らには、子どもが見てはいけない恐ろしいものを目の当たりにした辛い記憶があるのです。故郷のダルフールで、アリヤさんの家族4人は武装した男によって射殺されました。アリヤさんの子どもたちは、その時耳にした銃声や目にした悪夢にうなされているのです。
寝ても覚めても消えないトラウマに加え、不順な天候と空腹が子どもたちの苦しみに追い打ちをかけています。
チャドの自治体や、そこに住む人々は、寛大な心でスーダン難民を受け入れています。チャドはすでに50万人以上のスーダン難民を受け入れていますが、基本的なサービスの提供がひっ迫しているこの地で、受け入れ先のコミュニティにできることは限られています。
つい最近、アリヤさんは自宅が灰に帰したことを知ったそうです。彼女が今手にしているのは、2着の服と、4人の幼い子どもたち、そして辛い記憶だけです。
チャドに逃れた難民たちは食料や水を求めて長時間歩かなくてはなりません。特に若い女性たちからは、性暴力のリスクが高まっているという声が上がっています。
これから雨季に入ると、感染症が発生するリスクが高まることが懸念されます。深刻な人道危機が壊滅的な事態に発展することを防ぐための時間は残されていないのです。国連職員の話では、今後数カ月でさらに25万人のスーダン難民がチャドに押し寄せることが予想されるそうです。
子どもたちのニーズに即した支援を最優先に
清潔な水、衛生、食料、栄養補給、医療など、ここではあらゆるものが必要とされています。現金もそうです。現金やクーポンによる支援は人道支援の一種であり、それぞれの人が自らのニーズに基づき、商品やサービスを購入できるようにするもので、緊急時に柔軟な対応をするのに適しています。
このような支援により、危機下にある人々が選択肢を得て尊厳ある生活を得ることができます。現金とクーポンによる支援は、人道支援の望ましい形態として台頭してきています。「State of the World's Cash 2023」報告書によれば、2022年には79億ドルが現金またはクーポンとして危機的状況下の人々に支給され、国際人道支援の21%を占めたといいます。
恐怖を体験し、学校に通う機会を奪われてしまった子ども、両親を失い、友人や家族から引き離され、多くの危険にさらされている子どもの支援に最優先で取り組むべきです。
プラン・インターナショナルと現地のパートナー団体は、教育や娯楽の機会の提供を通じて子どもたちを支援しています。仮設の学習スペースでは、子どもたちは文字や算数を学び、安全な環境のもと要なスキルを身につけることができます。
「子どもひろば」では、遊びや工作を通じて、子どもたちは辛い記憶を忘れ、トラウマに対処するための方法を習得しています。幼い心が受け止められることには限度があります。
仮設の学習スペースや「子どもひろば」は、子どもが癒され、対処し、希望を再発見できる聖域ともいえます。こうした安全な場所は、子どもがありのままでいられるかけがえのない贈り物なのです。
アドレの「子どもひろば」では、4歳のラミアちゃん(仮名)が微笑みを浮かべながら、一生懸命に凧の絵を描いていました。凧は風とともに上がるのではなく、風に逆らって上がるのだと、別の紛争地域の子どもが教えてくれたことがあります。それは凧にも、困難に打ち勝とうとする難民の子どもの生活にも当てはまる真理ではないでしょうか。

凧の絵を描くラミアちゃん
「故郷で目にした残忍な殺戮の光景を忘れるために、子どもひろばに来ています」とゼナブさん(仮)は語ります。彼女はわずか7歳にして、紛争を切り抜け安全に遊べるスペースの重要性を認識できています。
遊び場に来た当初、ゼナブさんは物静かで内気な子だったそうです。彼女は徐々に口数が増えおおらかになっていったそうです。ゼナブさんは、子どもたちを助ける医者になりたいと、希望に満ちた決意を話してくれました。
ある決断は恐怖のなかでなされます。希望に満ちた決断もあります。恐怖と希望のはざまにある、スーダンの子どもたちの人生に思いを馳せて。
- ※個人情報保護のため、子どもたちの名前は仮名に変更しています。






