(2025年01月22日更新)
プラン・インターナショナルの国際人道支援ディレクターであり、長年人道支援に携わってきた医師のウニ・クリシュナンが、ガザの子どもたちにとっての「平和」についてお伝えします。
ガザの子どもたちにとって平和とは、希望を意味します。停戦は、想像を絶する苦難のただ中で与えられる、か細い糸のようなものです。15カ月以上もの間、苦しみが絶えない状況で、正義に基づく平和は貴重な休息の瞬間です。子どもたちが拘束され、人質にされている事実も含め、これまでの苦難を少しでも和らげ、回復への道のりを歩む機会になります。
紛争の爪痕と子どもたちの夢
数年前、他の紛争時に停戦合意が成立したタイミングで、私は人道支援のためガザを訪れました。そのとき、北ガザのオマル・カッターブ小学校近くで、8歳のワヒダに出会いました。学校が爆撃され、鉄骨や瓦礫がむき出しになった光景は壮絶でしたが、ワヒダと友だちはその瓦礫のなかで何かを探していました。ワヒダが見つけ出したのは、自分が作ったカラフルなポスター。部分的に焼け焦げていたのを残念に思いながらも、彼女は「もう爆撃もミサイルもなくなり、友だちと学校に戻れる」と信じて微笑んでいました。暗い状況のなかでも、子どもは平和を夢見るのです。
人道支援の現場にいると、紛争が子どもたちの心身に与える甚大な影響をまざまざと感じます。一方で、停戦合意が成立することで、かつて家族が暮らし、食卓を囲み、笑い合っていた家や街に少しずつ日常を取り戻す力も目にしてきました。けれど、武力衝突をくぐり抜けた生活は決して元には戻りません。命を落とさずに済んだとしても、被害は長く続くのです。
ガザにおける人道支援 4つの重要ステップ
ここからは、ガザの今後に必要な4つの重要なステップを示します。
1.子どもを最優先に
子どもたちは紛争を引き起こさなくても、もっとも大きな被害を受けています。ガザでは推定15カ月の間に4万6,707人が命を落とし、そのうち1万7,580人が子どもです。爆撃やミサイル攻撃による火傷が幼い身体を深く傷つけ、多くの子どもたちが大きな障害を負いました。こうした身体的な障害は心の苦しみを増幅させ、リハビリや医療がなければ生活を維持できません。
また、人質に捕らえられた子どもや、イスラエルの刑務所に違法に拘束されているパレスチナの子どもたちもいます。研究によれば、人質や誘拐の被害者は衝撃、麻痺感、不安、罪悪感、無力感など、深刻なストレス反応を抱えやすいとされています。
ガザでは、多くの子どもが家や家族、友人と離れ離れになりました。数多くの子どもが瓦礫の下に埋もれ、病院も学校も破壊され、ガザは住み続けるのが難しい状態になっています。救援や復興の取り組みでは、子どもたちのニーズを最優先に位置づける必要があります。
2.継続的な停戦合意を実現する
「紛争地では、古い封筒の裏でも平和的な合意はできる」とよく言われます。停戦自体はゴールではなくスタートであり、暴力の終息と恒久的な平和には、コミットメントと違反に対する厳しい責任追及が不可欠です。
人道支援物資の大規模な供給と支援活動の自由なアクセスを確保し、ガザ全域に支援を行き渡らせることが急務です。学校施設の約9割が被害を受けたり破壊されたりしており、教育や安全な遊び場が失われたままでは子どもたちに大きな影響を与えます。学校や病院、家屋の再建を優先しなければなりません。
また、水や衛生設備が壊滅状態にあるため、コレラなどの水系感染症がまん延する危険も非常に高いです。清潔な水の確保と衛生状態の復旧は、さらなる被害を防ぐための必須事項です。
3.目に見える支援だけでなく「見えない苦しみ」にも目を向ける
状況は深刻そのものです。食料、水、安全な住まい、医療、心のケア、保護、教育の機会といった支援が急がれます。何千人もの子どもたちが飢餓に瀕するような状況であり、時間はほとんど残されていません。栄養補助や食料の優先的配布が求められます。女の子や女性のなかには入浴できない日が続き、健康と尊厳を損なわれるケースもあります。現地の市場を活性化するために現金支援を組み合わせる方法も考えられます。
最も恐ろしいのは、紛争による心の傷の大きさです。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが、イスラエルによるパレスチナ人への行いを集団虐殺とみなしたとの報告があり、さらに国連の専門委員会も、イスラエルの政策と実態が集団虐殺の特徴と一致していると指摘しています。
ガザの子どもたちは死や苦しみ、暴力を何度も目撃してきました。現在18歳になる若者が過去に経験した武力衝突は、2006年、2008年、2012年、2014年、2021年、そして2023年10月以降、途切れることなく続いてきています。幼い心が耐えうる限界を超えれば、子ども時代を奪われてしまいます。たとえ銃声が止んでも、心の傷は残ります。その癒しには医療だけでなく、思いやりと継続的なケアが欠かせません。生活に必要な物資、心のケア、学校や遊び場の再開が、子どもの心を解きほぐす大きな助けになります。
停戦直後は、不安や恐れ、期待が入り混じって続く時期です。見えにくい心の問題にも重点を置いた支援こそが必要です。
4.救援・医療スタッフへのサポートを忘れない
最前線で活動する救援・医療スタッフ、看護師、救急隊員、教師らの心身のケアも極めて重要です。15カ月を超える過酷な状況下で、日々自らの辛い感情と闘いながら支援を続けてきました。イスラエルによる援助物資の制限で、麻酔薬すら十分にない状態で手術を行わなければならない医師もいます。自分の子どもに対しても手足の切断などを余儀なくされたという痛ましい話も伝わってきます。教師は学校が瓦礫に変わる様子を目の当たりにし、親は子どもが飢えで衰弱していく姿を見ています。
こうした人々の怒りや悲しみ、心の苦しみは深刻ですが、それでもなお人々の暮らしを再建するために尽力しています。人道支援が実りあるものとなるためには、こうした支援者たちの心に寄り添ったケアも不可欠です。
希望の断片を見つめて
紛争地に生きる子どもたちにとって平和は希望
ガザの被害は甚大で、アントニオ・グテーレス国連事務総長も「ガザは子どもたちの墓場のようになりつつある」と警告したことがあります。この15カ月は、その懸念を痛ましい形で裏づけるものとなりました。それでも、絶望のなかにあっても希望のかけらは残ります。私が北ガザの爆撃された学校で目にした焼け焦げたポスターには、パレスチナを代表する詩人マフムード・ダルウィーシュの言葉が記されていました。
「この地には、生きるに値するものが、まだある。」
ガザの子どもたちにとって、停戦と正義に基づいた永続的な平和は、まさにその「生きるに値するもの」を取り戻すための出発点なのです。






