(2024年09月02日更新)
こんにちは、アドボカシーグループのアンナ・シャルホロドウスカーです。今年6月、早稲田大学の国際教養学部の秋葉ゼミで学生を対象に、民主主義と寛容の価値について考えるワークショップを開催しました。ワークショップでは、私自身の経験を共有すると同時に、ウクライナ国内で起きている、ロマの人々(ジプシー)に対する差別や迫害紹介。偏見がいかに危険か、そして偏見が引き起こす憎悪を早い段階で防ぐことの重要性とその方法を示す良い機会となりました。
早稲田大学の学生の皆さんと筆者(右から5人目)
民主主義と寛容の価値について考えるワークショップ 実施の背景
ウクライナにいたとき、私は大学で学びながら学校で働いていました。また、インフォーマル教育に強い関心を持ち、民主主義や寛容をテーマにした研修やワークショップなどに参加。これらの価値を自分の仕事を通じて生徒に伝えることで、生徒自身や社会全体にプラスの影響や変化をもたらすことができると信じていました。
来日後、プラン・インターナショナルの同僚にその経験を共有したとき、民主主義と寛容の価値について学ぶワークショップを企画することを提案されました。ワークショップづくりに取り組むなかで、私は、民主主義と寛容についてのさらなる学びを深め、それらが平和と紛争予防の鍵であることを再発見することができました。
ウクライナでロマの人々が直面している過酷な状況
ウクライナのロマ・コミュニティは、ウクライナで最大のコミュニティであると同時に、最もステレオタイプに苛まれているコミュニティでもあります。歴史的な観点から説明します。
キエフ国際社会学研究所が毎年実施している「ウクライナにおける民族間の偏見に関する調査」によると、ウクライナで紛争が激化する前、ロマはウクライナ人が抱く社会的距離と否定的な認識においてトップでした。2023年には4位に下がったものの、この結果は依然としてウクライナ社会におけるロマの人々への排除と否定的な認識を示しています。歴史的に、ロマは明確に定義された居住地を持たず、手工芸品を広めるために各地を転々とすることが多かったため、ロマに対するさまざまな固定観念や偏見が生まれました。他の集団から見て、ロマのコミュニティが謎めいていて秘密主義に見えたことから、ロマに対する固定観念が形成されていったと考えられます。「汚い」、「人を欺く」、「怠け者」、「盗み癖がある」、「物乞い」、「占い師」と決めつけられたことで、他の集団との距離が生じ、差別につながったと考えられます。

ロマの人々への偏見・固定観念(ワークショップ資料より)
ソ連が1991年に崩壊し、ウクライナがソ連から独立して以来、多くのロマの人々は、さまざまな理由でウクライナの市民権を取得することができませんでした。その結果、彼らの居住は違法とされ、さらに状況が悪化しました。現在、ウクライナに暮らすロマの約40%が公的書類を持っておらず、持っていたとしてもその3割は無効とされています。加えて、伝統的に家父長制の大家族であること、女の子の早すぎる妊娠と出産が多いことなどから、教育水準は極めて低く、ロマの約4人に1人はウクライナ語の読み書きができずにいます。
不法滞在や教育の欠如といった問題は、ロマに多くの困難をもたらしています。安定した収入がないために貧困や不衛生な生活環境に陥るケースも少なくありません。このことが、社会におけるロマに対する固定観念や拒絶反応を強め、紛争の激化とともに、避難民となったロマの人々に対するヘイトスピーチなどの差別的行為が一層激しくなっているのです。
偏見や固定観念が生む差別・憎悪を克服するためのワークショップ
ウクライナのロマに対するステレオタイプや憎悪は、迫害にまでエスカレートしています。2022年に紛争が激化する前、ロマの人々が暮らす仮設住宅が繰り返し襲撃されていました。財産の損壊だけでなく、傷害事件や殺害事件にも発展し、憎悪はピラミッドの頂点に達していました。
これは、偏見やステレオタイプがいかに危険なものであるか、そして、それらを生み出す憎悪が暴力にエスカレートしないように注意することがなぜ重要なのかを示しています。日本ではロマの人々が経験したような事態は起きていないものの、特定のマイノリティ集団へのヘイトスピーチや差別の事例は起こっており、民主主義と寛容について考えることは、非常に重要です。
あらゆる憎悪を克服するためには、たとえそれが自身の考えに反するものであっても、他者の立場や状況、視点を理解しようと努めることが非常に重要です。そのため、ワークショップの題材として、ロマの再定住や居住の合法化の問題をめぐり、ロマと地元住民、当局それぞれの立場から考える方法を選びました。議論はディベート形式で展開され、学生たちは、自分たちに課せられた立場に立って問題を考え、対立する立場の意見に耳を傾けました。自分に課せられた役割に基づいて意見を述べるだけではなく、異なる立場に置かれた者同士で問題解決の方法を見出そうとする、学生たちの姿勢に感銘を受けました。
ワークショップを通して伝えたい、他者を尊重するということ
私はワークショップを通して、他者の特性やライフスタイル、立場や視点を理解し、尊重することを参加者に伝えるよう心がけています。また、他者の多様性を肯定的に受け止め、誤解が生じた場合には、その原因を探り、理解し、話し合いによって共通の解決策を見出すことを学ぶように促しています。あらゆるステレオタイプや偏見は、気づかないうちに社会に入り込んできます。場合によっては差別や人権侵害、大量虐殺など、より深刻な事態に発展する可能性もあります。また、特定の集団に属する人について、一般化したり、決めつけたりしないことも重要です。このことを理解し、責任を持って行動することで、社会におけるさまざまなグループに対するあらゆる形態の憎悪を防ぐことができるはずです。誰もが尊重される社会をつくることは世界で起こっている紛争の防止にもつながります。
前向きな実践と将来の計画
私同様に、ウクライナで教師をしていた夫は、クラスの3分の1の生徒がロマという特殊なクラスを受け持っていました。彼はロマの子どもたちの特性を多様性として肯定的に捉えることで、教室内での子どもたちの統合と教育の実践に成功しました。
社会により前向きな変化を起こすために、私はこれからも平和を考えるためのワークショップに取り組み続けたいと思っています。学生たちからのコメントやアドバイスを受け、ワークショップの改善に努めています。また、9月にはプラン・インターナショナル・コロンビアから同僚が来日し、ともにワークショップを作り上げる予定です。次回のブログで皆さまにお伝えできるのを楽しみにしています。






