(2025年06月19日更新)
東京マラソンチャリティを担当している加藤です。東京マラソン2025チャリティでは、いただいたご寄付の一部を「ロヒンギャ難民の識字教育プロジェクト」に使わせていただきました。寄付者の皆さまにプロジェクトの進捗状況をお伝えするため、2025年5月、バングラデシュのコックスバザールにあるロヒンギャ難民キャンプを訪問してきました。
識字クラスで感じた子どもたちの希望とエネルギー
広大な難民キャンプ
最初に訪問したのは、難民キャンプ内に開設されている女の子の識字クラスでした。そこでは15歳から24歳の女の子たちがいきいきと英語を学んでいました。閉ざされたキャンプで未来への希望が持ちにくい状況でも、学びによって自信を得た子どもたちは将来の夢を語り始める―そんな話を耳にしました。
ふだんキャンプ内で見かける「教師」や「お医者さん」だけを働く女性像として捉えている女の子たちにとって、時折訪れる外国人の女性の職業や佇まいに触れることで、「なりたい人」の選択肢が増えるのです。
私も一緒に英会話の授業に参加させてもらいました。
東京マラソンチャリティでプランが掲げる「女の子にも人生の選択肢を!」の言葉がこれほど重みをもつ場所を訪れたのは、私自身久しぶりのことでした。
訪れる外国人が少なくなっていることも影響してか、キャンプ内を歩いていると、子どもたちが覚えたての英単語を使って積極的に話しかけてきます。子どもたちの多くは避難当時幼かったため、ミャンマーでの生活を覚えていないそうです。さらにキャンプ内で新たに生まれる赤ちゃんが1日平均30人いるとのこと。
帰る場所も行く場所もなく、キャンプで過ごす時間が“人生のすべて”の子どもにとって、「学ぶこと」が自分たちの抱える現実を少しでも前向きに変える力になっているのだと痛感しました。

女の子の識字クラス。覚えた単語を使って会話中

キャンプ内で出会った子どもたち
コミュニティ集会から見えた課題と希望
コミュニティ集会
続いて、難民キャンプ内で行われたコミュニティ集会に参加しました。この場には、ユースリーダーを筆頭に、キャンプの住民である母親や父親、教師、10代の子どもたちなどが集まり、現在の生活や活動に対する意見を伺いました。キャンプ内外での治安悪化、人身取引(人身売買)や誘拐、過激派武装勢力による勧誘や強制徴兵といった深刻な問題について、生々しい報告がなされました。
一方、ポジティブな話も聞くことができました。子どもたちが識字クラスに通って、安全な場所で知識を身につけ、早すぎる結婚(児童婚)や暴力から身を守ることができること。また、若者たちがボランティアとして活動することが軽犯罪の抑止にもつながっていること。また要望として、生計向上のため、パソコンやエンジニアリングのトレーニング、ミシンの追加設置が必要だという具体的な声が上がりました。コミュニティ内に前向きな変化が現れ、家庭内やコミュニティでのジェンダー平等も少しずつ進んでいる様子に希望を感じました。
ホストコミュニティの学校での支援と女の子たちの変化
SELの教科書
プランでは、難民キャンプに隣接し、ミャンマーから流入してきたロヒンギャの人々を受け入れているホストコミュニティにも支援を行っています。今回の東京マラソンチャリティによるご寄付で、コミュニティ内の新たに3つの学校に「女の子専用の休憩室」を設置し、2つの学校で校舎の修繕を行うことができました。そのうちの1校で、プランの支援で始まったSEL(社会性と情動の教育)の授業を参観しました。この授業によって、子どもたちは心の安定を保ち、家庭や学校で他者と協力し合う姿勢を学んだと話してくれました。
また、トイレなどの衛生設備に隣接する場所に女の子専用の休憩室ができたことにより、女の子たちは生理期間中でも学校に通えるようになり、これまで以上に安心して学びを続けられるようになったそうです。
バングラデシュでは男女が一緒に学んだり遊んだりしない文化的風習が残っており、女の子が校庭など人目につく場所でスポーツをすることもめったにありません。休憩時間には木陰で座って時間を潰すしかなかった女の子たちにとって、専用の休憩室は文字どおりの拠り所となっています。
この部屋でゲームをしたり、ボール投げやバドミントンなどの簡単な運動をしたりできるようになりました。楽しそうにはつらつと動き回る姿は印象的でしたが、決して広くない部屋に、実に100人近くがひしめき合っていました。この子どもたちがいずれはもっと自由に、外で堂々と遊べる日が来ることを願わざるを得ませんでした。

休憩室では、ボール投げも

休憩室の壁に貼られた、自分の身を守るための情報
保護者の方々との意見交換では、あるお父さんが、女の子たちが学校でより安心して学べる環境が整ったことに対して非常に前向きな発言をしました。母親だけでなく、こうした集まりで女の子の教育に肯定的意見を述べる父親こそ、コミュニティ啓発において重要な役割を果たしているのではないかと感じました。
変化のうねりのなかで
約12平方キロメートル(千代田区ほどの面積)しかない難民キャンプで暮らすロヒンギャの人々は、昨年の100万人からさらに増えて、現在は113万人
※に。しかし、毎日のように新たな未登録の人々の流入も続いており、実際には150万人近いとの推測もあります。
バングラデシュ政府は2024年夏の政変後も、国際社会への積極的な援助要請をしていない一方で、ミャンマー側との間で「帰還」に関する合意を再び交わしたと報じられていますが、そう簡単に実現されることはないというのが多くの人の見方です。
さらに、昨今の国際情勢による主要ドナーの資金縮小により、支援プロジェクト数が半減したキャンプもあります。 最優先の食料支援でさえ配給額が昨年の半分となり、「子どもの保護」「ジェンダーに基づく暴力」は下位、教育支援は最下位と、資金確保が一段と厳しくなっています。
希望を支える学びの重要性を再認識
そのなかでも、今回視察したロヒンギャの識字クラスやホストコミュニティの学校支援は、日本からの資金援助や皆さまのご寄付によって何とか継続できています。教育、特に女の子が学べる場を提供できていることには非常に重要な意味があります。
現地のスタッフの、「人は食料がないと生きられないが、それだけでは人として生きていくことはできない」という言葉に深く感銘を覚えました。人間は何かをもらってただそこにいるだけでは人間らしくいることはできません。キャンプでは原則的に就業はできないのですが、大人は支給品を売ったり商売を始めたり、密かにホストコミュニティやコックスバザール中心部まで出稼ぎにも来る人もいます。
若者は正式な学校がなく、やることがないために軽犯罪に手を染めることもあります。またバングラデシュでも、通学する女の子たちのスカーフ着用率が上がっていることから保守回帰がうかがえます(プランの職員もスカーフをつけていないと道端で罵られた経験があるそうです)。
女性や女の子にとって識字クラスや専用休憩室のような居場所は学びの場であると同時に、早すぎる結婚や犯罪から身を守る場所でもあり、まさにライフセービングそのものになっているのです。今回の視察を通じ、人間としての尊厳や希望を支える学びの重要性、支援活動の意義を再認識しました。
いただいた刺繍入りの手作りバッグとうちわ
私たちの支援は、広大なコミュニティに対する大河の一滴ですが、その一滴を注ぎ続けることでやがて海につながり、少しでも多くの子どもたちの可能性を広げることができると信じたいです。日本の支援者や東京マラソンのランナーの皆さまからのご寄付が、このプロジェクトを通じて子どもたちの希望をつないでいます。心からお礼を申し上げます。






