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(2025年06月27日更新)

写真:古代インドの叙事詩ラーマーヤナの舞台、ジャナキ寺院

古代インドの叙事詩ラーマーヤナの舞台、ジャナキ寺院

ナマステ!プログラム部の伊藤です。「ジェンダー平等推進のための教育」プロジェクトのプロジェクト・マネジャーとしてネパールに赴任し、まもなく1年になります。首都カトマンズから、インド国境に近いタライ平原のマデシ州ジャナクプールへ移り住み、50度の酷暑と混沌のなかで見えてきた人々の営み、文化、課題、そして変化の兆しについてご紹介します。

ヒマラヤじゃないネパール

写真:ネパール地図と支援対象地域

「ネパールに駐在している」と言うと、たいてい「ヒマラヤですか?」と聞かれます。でも、私の勤務地ジャナクプールは、標高100メートルほどの平野部にある町。見渡す限り地平線が続くタライ地方の東端に位置しています。亜熱帯性気候のため、夏には50度近くまで気温が上がることも。町にはヒンドゥー文化が色濃く息づき、まるでインドにいるかのよう。トゥクトゥク、バイク、牛、歩行者が入り乱れる道を縫って、日々の活動に向かいます。

写真:トゥクトゥクとバイク、歩行者が入り乱れ大混雑

トゥクトゥクとバイク、歩行者が入り乱れ大混雑

写真:崩れかけの塀、自由に闊歩する牛はこの町の日常

崩れかけの塀、自由に闊歩する牛はこの町の日常

事務所は庭付きの一軒家のようなたたずまいで、バナナやマンゴーが実り、完熟した実をスタッフが木に登って収穫してくれます。今では私も当地のマンゴーの虜。熟す様子を観察したり、敷地内に巣作りしたカラスの子育てを見守ったりするのが、ささやかな癒しです。フレンドリーで家族のようなスタッフに囲まれ、午前中から40度を超える気温のなか、チャ(甘いミルクティー)を飲みながら打ち合わせをしています。

写真:ネパール東部地域事務所

ネパール東部地域事務所

写真:事務所のマンゴー。6~7月の食べごろまでもう少し

事務所のマンゴー。6~7月の食べごろまでもう少し

お祭りは日常、騒音は文化

ネパールは「神の国」とも呼ばれるほど、祭りと儀式が暮らしの一部。特にジャナクプールでは、深夜まで読経や音楽が大音量で響き、騒音という概念が存在しないかのようです(カトマンズの国統括事務所の同僚は「騒音」と呼びますが)。

最大のお祭りは10月のダサインと11月のティハール。ダサインは家族の繁栄を祈願するネパール最大のお祭りで、日本で言えばお正月のような存在。ティハールは光の祭典とも呼ばれ、兄弟姉妹の絆を祝う5日間の行事です。町には無数の灯りがともされ、花や色粉で家々が美しく飾られます。
2024年のダサインは集中豪雨で参加を断念しましたが、ティハールでは同僚の実家に招かれ、サリーを着て儀式に参加。親戚が何十人も集う儀式の賑やかさに圧倒されつつ、夜は一緒にクラブを堪能し、伝統と現代のミックスを楽しんだのは良い思い出です。

写真:ティハールの前夜は花輪づくりで大忙し

ティハールの前夜は花輪づくりで大忙し

写真:厄除けと幸運の願いを込めて兄弟姉妹へ感謝を

厄除けと幸運の願いを込めて兄弟姉妹へ感謝を

カーストは差別か文化か

一方、華やかなお祭りの陰には、ネパール社会に根づくカースト制度があります。インドほど差別は顕在化していませんが、苗字でカーストが分かり、異なるカースト間の結婚は稀。特にマデシ州ではその傾向が強く、カーストにより食べ物、習慣、居住村落などが細かく分かれています。

写真:4~5年生には見えない、小柄なダリットの子どもたち

4~5年生には見えない、小柄なダリットの子どもたち

当地の人々は、カーストは差別ではなく文化だと言います。けれど、同僚と豚の角煮を食べていた時、「それは低位カーストの食べ物」と説明された一言に、日常に根づくカーストによるヒエラルキーを実感しました。
攻撃的な差別ではないものの、人々のなかに静かに染み込む区別の感覚。文化や伝統という言葉で正当化されるその線引きは、日常のあらゆる場面に現れます。優しさのなかに排除が交じるこの社会で、文化や伝統、自由や平等とは何か、その境界線について考えさせられる瞬間が幾度もあります。
ジャナクプールでの暮らしは豊かで温かく、かけがえのない出会いにあふれています。それでも、その当たり前のなかにこそ、私たちの支援が向き合うべき課題が潜んでいると感じます。

希望は死なない

この1年、「支援とは何か」を考え続けてきました。たった一人の外国人マネジャーとして意思決定の場に入れてもらえず、悔しい思いもしました。それでも、現地の課題に真摯に向き合うなかで、今いるジャナクプールでは文化や言語の違いを越え、信頼し合える仲間が少しずつ増えてきました。

写真:年次ミーティングでプロジェクト関係者と

年次ミーティングでプロジェクト関係者と

2025年、世界有数の政府系援助機関が事実上解体され、国際協力は大きな転換点を迎えています。ネパールでも多くのプロジェクトが打ち切られました。
それでも、その機関で働いていた友人はこう言います。「Rie、どんな暗闇の中でも、希望は死なない。希望を胸に持ち続ける限り、私たちは前に進める」と。
ネパールの現場では今、かつて自己紹介もできなかった女の子たちが夢を語り、研修で自信をつけた先生が子どもたちと授業を楽しむ姿を見られるようになりました。そんな小さな変化が、私たちにとって何よりの希望です。

子どもたちの未来に灯る小さな希望の光を信じて、私は明日もこの町で、歩み続けます。そんな希望をともに支えていただけたらうれしいです。

写真:ジャナクプールの伝統ミティラアートを使った啓発活動

ジャナクプールの伝統ミティラアートを使った啓発活動

これまでの活動レポート

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プログラム部

伊藤 理恵

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