(2026年03月16日更新)
本ブログは、プラン・インターナショナルのアドボカシーグループで政策提言や調査業務を担当する、ウクライナ出身のアンナ・シャルホロドウスカー職員が執筆しています。現場の視点から見える社会課題や気づきを発信していきます。
毎年3月8日は「国際女性デー」です。そして3月全体は、歴史を通じて女性たちが果たしてきた役割や歩みを振り返る「女性史月間」として世界で広く認識されています。
国際女性デーは、女性が直面してきた不平等な権利や労働条件に対する声から生まれました。そしてその意義は、今日においても変わらず重要です。この日は、これまでに達成されてきた成果を振り返るとともに、真のジェンダー平等の実現に向けて残された課題を考える機会でもあります。国や地域によって、この日の捉え方や歩んできた歴史はさまざまです。その背景は、それぞれ社会において、現在だけでなく未来のあり方にも大きな影響を与えています。
今回は、3月という「女性の歴史」を見つめなおす時期に合わせて、ウクライナで国際女性デーがどのように受け止められてきたのか、そして私自身の経験や観察も交えながら、より公正で平等な社会を築くうえで得られる示唆についてお伝えしたいと思います。
“女性らしさ”が強調されてきた国際女性デー
ウクライナでは、ソビエト連邦(旧ソ連)の一部であった時代、1977年に国連が国際女性デーを「女性差別撤廃と国際平和の日」として正式に位置づける以前から、その受け止め方は人権を中心とした本来の意味から徐々に離れていきました。特に1960〜70年代以降、国際女性デーは権利を求める運動の日というよりも、「春」「女性らしさ」「美しさ」を祝う日として捉えられるようになっていきました。こうした認識の一部は、現在でもさまざまな形で残っています。このような位置づけは、形式的には男女平等を掲げながらも、同時に伝統的な社会的役割を強化していた当時の社会システムの論理にも合致していました。
こうした歪められた理解のもとで、女性は主に家事や育児を担うことへの称賛や感謝の対象として扱われました。その結果、女性は家庭内の役割を中心とした存在であるという社会的なイメージが徐々に形成されていきました。この日には花束が贈られることが多く、さらに家庭用品やキッチン用品などが贈り物とされることも少なくありませんでした。それらは、象徴的にこうした役割を強調するものでもありました。
このような国際女性デーの解釈は、家庭や職場など、社会のさまざまなレベルで広く共有され、社会的な慣習として再生産されてきました。学校行事や教育課程、教科書などのなかでもその理解が強化され、子どもたちは幼い頃からこの日について単純化された、そして本来とは異なる意味を学ぶことになりました。その結果、多くの人が国際女性デーの本来の起源や意義を知らないまま成長し、ジェンダー平等や権利の問題からさらに距離が広がってしまう状況が続いてきたのです。
「女性らしさと春を祝う日」から人権の日へ―意識の変化
1991年にウクライナが独立を宣言した後も、国際女性デーの本来の人権的な意味が変化してしまった影響は、長く残っていました。私が学校に通っていた頃も、女性の教師や母親、女子生徒のためにお祝いのコンサートが開かれ、「女性らしさと春を祝う日」として祝われる光景をよく目にしていました。一方で、この日の本来の意味について語られることはほとんどなく、私自身も長い間、この日を「女性の権利を求める闘いの日」として捉えることはありませんでした。
しかし近年、とりわけ2022年以降、歴史認識や社会の語り方をめぐる議論が活発になっています。社会全体が、これまで当たり前とされてきた伝統やソ連時代の価値観を見直すようになりました。その変化は、教育教材の見直しや学校での取り組みの変化、新たな教育指針の作成などを通じて、国際女性デーの人権的な意味を改めて認識する動きとして現れています。こうした意識の変化は、社会調査の結果にも表れています。キエフ国際社会学研究所の調査によると、2017年にはウクライナ人のほぼ半数(49%)が3月8日を「好きな祝日の一つ」と答えていましたが、現在ではその割合は約23%にまで減っています。これは、この日を単なる祝日として捉える固定的なイメージから徐々に離れ、本来の意味を見直す動きが進んでいることを示しているのかもしれません。
現在起きているこうした変化は、過去を新たな視点で見つめなおし、国際女性デーの本来の意味を少しずつ取り戻していく可能性を示しているのではないでしょうか。
「Next Generation Gender」フォーラムに参加して感じたこと
社会状況や変化のスピードは国によって異なりますが、ジェンダー平等は世界共通の課題です。少しずつ前進しているものの、現在のペースでは世界全体の達成まで約120年かかるという推計もあり、今を生きる世代にとって変化をどう実感できるものにするかを考えさせられます。その意味で、昨年12月に参加した「Next Generation Gender」フォーラムは、こうした課題を自分自身の視点から捉えなおす大きなきっかけとなりました。
フォーラムでは、ジェンダー平等の現状や社会における女性の役割、そして若者が果たす役割について、多様な分野の登壇者から意見を聞くことができました。特に、女性が依然として多くの無償家事労働を担っていることや、リーダーシップの場における女性の割合の低さ、賃金格差など、構造的な課題が強調されていました。
一方で、不平等は制度だけでなく、伝統的な役割に関する固定観念など「見えにくい壁」によっても生じます。こうした壁を越えるには、社会の意識を変え、性別にとらわれず役割を分かち合える環境づくりが重要です。若い世代の新しい視点は、これまで「当然」とされてきたことを問い直し、変化を生み出す力を持っています。
ウクライナでの自分の経験と今回の議論を重ね合わせると、過去の慣習を見直し、新しい視点を取り入れることの重要性をあらためて感じました。こうした発想が、よりジェンダー平等で包摂的な未来をつくる原動力になるのだと思います。
小さな一歩が社会を変える―国際女性デーの力
国際女性デーは、平等な権利の実現が、私たちすべてにとって共通の責任であることを思い出させてくれる日です。これまでを振り返ると、確かな前進が見られる一方で、依然として継続的な関心と取り組みが必要な課題も多く残されています。
社会に深く根づいた問題は、時として気づかれにくいものです。しかし、その背景にある原因を認識することで、私たちは前へと進むことができます。それは、個人の選択や日常の行動から始まる、小さくても着実な一歩の積み重ねによって実現していくものだと思います。
国際女性デーが単なる象徴的な日としてだけではなく、一人ひとりが立ち止まって考え、行動するきっかけとなることを心から願っています。そして、その積み重ねによって、より開かれ、思いやりがあり、公正な社会をともに築いていけることを願っています。






