(2024年11月29日更新)
多様な子どもたちがともに学ぶインクルーシブ教育の実現にむけて、世界各国でさまざまな取り組みが進められています。ここでは、インクルーシブ教育とは何か、なぜいま重要視されているのかを、海外や日本における具体的な実践例とともにご紹介します。

もくじ
インクルーシブ教育とは
インクルーシブ教育(inclusive education)とは、障害の有無、国籍や人種、宗教、性別などの違いにかかわらず、すべての子どもたちが分け隔てなく学べる教育のことをいいます。
インクルーシブ教育は、すべての子どもに教育を受ける権利を保障するとともに、子どもたちの多様性を尊重し、社会で生き生きと生活できる基盤を作る点を重視しています。障害のある子どもを社会から排除せず、周囲の子どもたちを含む全員がともに学び合う機会を提供するのです。

これにより、子どもたちは幼いころから多様性への理解を深めることができ、ファシリテーション能力や共感のスキルも身につけることができます。結果として、インクルーシブ教育は、より公平で包摂的な社会を実現する可能性を高め、持続可能な開発目標(SDGs)が目指すより良い未来に貢献すると考えられています。
インクルーシブ教育と特別支援教育はどう違う?
特別支援教育とインクルーシブ教育はしばしば混同されがちです。両者はどのように違うのでしょう。
特別支援教育
障害のある子どもに対する専門的な支援を提供することを目的とした教育形態です。これは特別支援学校や特別支援学級で行われることが多いです。
インクルーシブ教育
インクルーシブ教育はより広範な概念であり、障害の有無にかかわらず、すべての子どもたちがともに学び、成長できるような環境を学校全体で作り上げることを目指す教育です。さまざまな背景やニーズのある子どもたちがともに学べる環境づくりが重要視されています。
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インクルーシブ教育が注目されるようになった背景
つづいて、インクルーシブ教育が世界的に注目されるようになった経緯を、3つの観点からみていきましょう。
ユネスコによるインクルーシブ教育の推進
インクルーシブ教育の理念は、1994年の「サラマンカ宣言」によって国際文書に初めて明記されました。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、この宣言を通じてインクルーシブ教育を推進しており、各国に対してすべての子どもたちに等しい教育の機会を提供する責務を強調しています。これにより、多様性を尊重し、社会全体での包摂を目指す教育が国際的に広まりました。
持続可能な開発目標(SDGs)「質の高い教育をみんなに」
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2015年の国連総会で採択されたSDGsの目標4には、「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」ことが掲げられています。誰も取り残さない、包摂的な教育を実現することはSDGs目標4の達成にも不可欠であることから、インクルーシブ教育が注目されるようになりました。
日本におけるインクルーシブ教育の導入
日本でもインクルーシブ教育の導入は進みつつあります。特に、共生社会の実現に向けた取り組みが積極的に行われています。しかし、ユネスコが提唱するインクルーシブ教育と、日本の文部科学省が推進している「インクルーシブ教育システム」には若干方向性の違いがあるとされています
※1。前者は、障害者だけでなくさまざまなマイノリティを含むすべての子どもたちの多様性にあった教育を行う・模索するという考え方に基づく教育を意味します。合理的配慮を軸に、個々の児童・生徒のニーズに合わせた教育環境や指導方法の提供を目指す点が特徴です。
一方、後者は、主に障害のある児童・生徒を対象とし、従来の特別支援教育を推進しつつ、「同じ場でともに学ぶことを追求」「自立と社会参加を見据えて」、教育ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することを重視しています
※2。専門性の高い教員や支援体制の整備、個別的な支援にも力を入れています。
インクルーシブ教育の具体的な事例
ここまでお読みになり、インクルーシブ教育の定義や、重要視されるようになった背景について理解を深めていただけたのではないでしょうか?ここからは、インクルーシブ教育がどのように実践されているのかについて、日本、そして海外の取り組み事例を紹介します。
日本の学校現場の事例
日本の学校現場でも、さまざまな実践が行われています。その一例として、神奈川県の「インクルーシブ教育実践推進校」※をご紹介しましょう。ここでは、通常学級と特別支援学級の境界を取り払った教育が推進されています。具体的には、知的障害があり特別な支援を必要とする子どもたちが、通常の授業に参加できる環境が整えられています。

また、大阪府豊中市では約50年も前に、保護者や教員たちの運動を機に「豊中市障害児教育基本方針」が作られ、障害のある子どももない子どもも通常学級でともに学ぶ取り組みが進められています。大阪府全体でも、公立小中学校の多くで、「ともに学び、ともに育つ」という方針のもと、特別支援学級に在籍する児童・生徒も、障害のない児童・生徒とともに学ぶ「原学級保障」という方式が実践されています
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世界のインクルーシブ教育の事例
トーゴでは、障害があることを恥と考える文化が根強く残っており、障害のある子どもは家庭内に隠されたり、地域でいじめの対象となったりしがちです。加えて、学校の設備は十分整っておらず、障害のある子どもたちへの教授法も導入されていません。こうした状況下では、障害のある子どもたちが教育を受けること自体が困難であり、その多くが一度も学校に通うことなく、教育を受ける機会を奪われています。そのため、インクルーシブ教育の必要性がとても高まっています。
トーゴ中央州モー県、カーラ州バサール県では、国際NGOプラン・インターナショナルとの連携のもと、地域や学校でのインクルーシブ教育の実践に取り組んでいます。具体的には、小学校の教室やトイレ、給水設備の整備、スロープの設置などによる学習環境の改善や、教職員・保護者へのトレーニング、地域での意識啓発を通じ、障害のある子どもたちが社会で居場所を得て、質の高い学校教育を受けられるようになることを目指しています。

放課後に補修を受ける弱視の女の子
トーゴの「障害のある子どもの教育支援」プロジェクトについてもっと知る
インクルーシブ教育の推進にむけた課題
インクルーシブ教育の推進には、多くの課題が存在します。ここでは3つの観点から考えていきましょう。
教師や支援員の知識・スキル
まず、教師やスタッフの専門知識やスキルの不足が挙げられます。障害のある子どもたちへの適切なサポートや、多様なニーズに対応するための教育方法を、教師や支援員がしっかりと身につける必要があります。また、通常の学級において、特別支援教育を受けている子どもと他の子どもたちがどのように共存しながら学び合うかという取り組みも求められます。これらの点をクリアするためには、専門的な研修の実施や、支援体制の整備が必要です。

教師への手話トレーニングの様子(トーゴ)
学校環境や教材の整備
さらに、学校の物理的環境や教材の整備も重要な課題です。例えば、バリアフリーの教室や、視覚や聴覚に障害のある子どもたちが活用できる教材の準備などです。これらの環境整備は、すべての子どもが学びやすい環境を整えるために不可欠です。

入口にスロープが設置されたトイレ
地域社会との連携
学校内だけでなく、地域全体がインクルーシブ教育を理解し、支えることも重要です。地域社会全体で多様性を尊重し合う環境づくりに取り組むことで、子どもたちがより安心して学び続けることができるようになります。
インクルーシブ教育が根づいた、多様性が尊重される社会の実現にむけて私たちにできること
インクルーシブ教育を社会に根づかせるために、私たち一人ひとりにできることはあるのでしょうか。
重要なのは、インクルーシブ教育を、単に教育上の問題ではなく、社会全体の問題として考えていくことです。さまざまな背景を持つあらゆる子どもが平等に受け入れられ、参加できる教育環境を実現する。それは、「誰一人取り残さない」ことを掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の理念の実践にほかなりません。
難しい問題ではありますが、教育現場に直接関わっていなくても、日本や世界におけるインクルーシブ教育の現状や課題を知り、普及にむけた取り組みを行っている団体や組織、学校などを支援することはできます。
障害の有無や居住地、性別の違いなどにかかわらず、すべての子どもたちが平等に学び、人生の選択肢を広げることができるよう、あなたにできることから始めてみませんか?
インクルーシブ教育の普及を後押しするための取り組み・支援はこちらから
運営団体
国際NGOプラン・インターナショナルについて
国際NGOプラン・インターナショナルは、誰もが平等で公正な世界を実現するために、子どもや若者、さまざまなステークホルダーとともに世界80カ国以上で活動しています。子どもや女の子たちが直面している不平等を生む原因を明らかにし、その解決にむけ取り組んでいます。子どもたちが生まれてから大人になるまで寄り添い、自らの力で困難や逆境を乗り越えることができるよう支援します。









