(2025年08月07日更新)
仏教徒が多数を占めるミャンマーで、イスラム系少数民族のロヒンギャは長年差別と排除の対象となってきました。国籍を奪われ、度重なる掃討作戦や暴力から逃れるため、隣国バングラデシュなどに避難。いまや国外に逃れた難民は100万人規模といわれ、「世界で最も迫害された民族」とも形容されています。背景には植民地支配の遺産、宗教対立、軍政下で強まった民族主義など複雑な要因が絡み合います。

バングラデシュ・コックスバザール県のロヒンギャ難民キャンプ
この記事では、ロヒンギャ問題の歴史と迫害の理由、難民キャンプの厳しい現状、国際社会や日本の役割、そして今求められている支援について解説します。
もくじ
「ロヒンギャ」とはどのような民族?
ロヒンギャはミャンマー西部ラカイン州(旧称アラカン)を中心に暮らしてきたイスラム系の少数民族です。何世紀にもわたりこの地域で生活してきましたが、ミャンマー政府からは「バングラデシュから流入した不法移民」と見なされ、国籍や基本的人権を認められていません。

乳児を抱くロヒンギャ難民の若い母親
居住地と人口
ロヒンギャ人口は推定約200万人。その多くが歴史的にラカイン州北部に居住してきました。2017年の大規模武力弾圧後、約74万人が国境を越えてバングラデシュへ逃れ、現在では世界最大規模の難民キャンプが形成されています。国連はロヒンギャを「世界で最も迫害された少数民族」と位置づけています。
宗教
ミャンマー国民の約9割が仏教徒であるのに対し、ロヒンギャのほとんどはイスラム教徒です。宗教的マイノリティとして差別対象となりやすく、寺院や僧侶を守ろうとする仏教民族主義者の扇動も迫害を助長してきました。
言語と文化
ロヒンギャの人々は独自の「ロヒンギャ語」を話します。語系はインド・アーリア系で、ベンガル語やアラカン語の影響を受けつつも、特有の語彙と発音が残っています。隣国バングラデシュ南東部のチッタゴン方言とは近縁で、おおむね意思疎通が可能です。こうした類似性は、歴史的にベンガル地方(現在のバングラデシュとインド・西ベンガル州)と深い交流があったことを物語っています。
ミャンマー政府やバングラデシュ政府との関係
ミャンマーは1982年国籍法でロヒンギャを135の「国家認定民族」から除外し、「不法移民」と位置づけました。一方、バングラデシュ政府も彼らを自国民とは認定せず、双方の狭間でロヒンギャは無国籍状態に置かれ続けています。
なぜ迫害が?ロヒンギャの弾圧と難民化の歴史
ロヒンギャへの迫害は近年突然起きたわけではありません。英領時代から続く民族間対立、独立後の軍政、そして2017年の大規模掃討まで、差別と暴力の連鎖が難民化を加速させてきました。
長年にわたり繰り返されてきた弾圧の経緯
ロヒンギャ問題の根は深く、1948年にビルマ(現在のミャンマー)がイギリスから独立した時代にさかのぼります。独立直後こそロヒンギャの存在は社会に受け入れられていましたが、1962年の軍事クーデターでミャンマー国軍のネウィン将軍が軍事政権を樹立すると状況は一変します。
「ビルマ民族中心主義」に基づく「ビルマ式社会主義」のもと、異民族や仏教徒以外の異教徒を排除する政策が進められ、ロヒンギャは激しい弾圧にさらされるようになりました。

ミャンマー中部の都市マンダレーの風景
その結果、1970年代にはバングラデシュへ流出する人びとが現れ始めます。さらに1982年、政府が国籍法を改正するとロヒンギャの多くが国籍をはく奪され、社会からの排除はいっそう深刻化しました。ネウィン政権が崩壊した1988年以降も弾圧は続き、1991年から1992年にかけて再び多くのロヒンギャがバングラデシュへ逃れています。
民政移管後の2011年を経ても緊張は収まらず、2012年にはロヒンギャとアラカン仏教徒の間で大規模な衝突が発生し、多くのロヒンギャが当局によって国内避難民キャンプに強制的に収容されました。

膨大な数の難民が流入した直後の難民キャンプ
決定的な転機となったのが2017年8月です。ロヒンギャの武装勢力がミャンマーの警察施設を襲撃したことを受けて治安部隊は激しい報復作戦を展開し、約1カ月間の死者数は少なくとも6700人以上に上ったといわれています。
この暴力の連鎖を逃れるため、70万人ものロヒンギャが国境を越えてバングラデシュに避難し、膨大な数の難民キャンプが急造されました。その後、2021年2月にはミャンマーで軍部主導のクーデターが発生し、軍政下ではロヒンギャ難民の本国への帰還がさらに困難となっています。
| 1948年 | ビルマ(現ミャンマー)がイギリスから独立 |
|---|---|
| 1962年 | 軍事クーデター発生。独裁政権の樹立。ビルマ民族が主導権を握る |
| 1982年 | 「ビルマ国籍法」が制定。ロヒンギャは非国民とみなされ、無国籍に |
| 1988年 | 民主化デモによりネウィン政権が崩壊。以降も軍事政権による激しい弾圧が続く |
| 2012年 | 2011年の民政移管から約1年後、ロヒンギャと仏教徒集団との間で大規模衝突が発生 |
| 2021年 | 2月、軍部主導のクーデター発生 |
弾圧の要因
迫害の背景は一つではありません。植民地期に雇用や徴税をめぐって生じたベンガル系移民との軋轢、独立後に軍政が掲げた「ビルマ民族中心主義」、仏教徒とイスラム教徒の宗教的対立、そして資源や土地をめぐる争奪など、多層的な要因が絡み合っています。SNSによるヘイトスピーチ拡散も暴力を扇動したと指摘されています。
深刻な問題の一つ「国籍はく奪」
1982年に施行されたミャンマーの国籍法は、「135の土着民族」だけに国籍を認め、英領時代から暮らしてきたロヒンギャを一挙に“外国人”扱いにしました。正式な身分証が得られないロヒンギャの人々は、投選挙権だけでなく州境を越える移動や大学出願、公務員試験なども制限され、都市部で働く道やキャリア形成を断たれてしまいました。
さらに、銀行口座・土地登記・公的医療へのアクセスも拒まれるため、生活基盤を築けず、貧困と差別が子ども世代へと固定化しているのが現状です。
ロヒンギャ難民が直面する厳しい現状
2025年6月時点でバングラデシュに避難しているロヒンギャ難民は114万3,000人以上。その78%を女性と子どもが占め、性暴力や児童労働などの被害を訴えることすら難しい状況に置かれています。
- 出典:「今、ロヒンギャ難民が直面する危機」(国連UNHCR協会)
難民キャンプでの厳しい暮らし
難民キャンプは、過密であるうえに生活環境が厳しいという問題があります。基本的な水や衛生設備が不足し、保健医療サービスも限られています。さらに、教育や就労の機会にも制限があります。難民キャンプがある地域は、雨季にはモンスーンなどによる洪水や地滑りのリスクにさらされ、難民たちはさらなる困難に直面することになります。人口増加に伴い、難民キャンプ内の治安は悪化の一途をたどり、麻薬取引や人身取引などにあう可能性やリスクが高まっています。

洪水発生後の難民キャンプ内居住区
受け入れ国バングラデシュの限界と課題
バングラデシュは世界有数の人口密度を抱える国です。2017年以降、政府は人道上の立場から大量の難民を受け入れてきましたが、難民キャンプが集中するコックスバザール県ではインフラ、森林伐採、治安悪化など地元住民との摩擦も深刻です。近年はモンスーンによる洪水、キャンプ火災、さらに食料支援の国際拠出減少が生活を直撃しています。
バングラデシュってどんな国?現状と支援活動
未来を閉ざす教育と生計の課題
ロヒンギャ難民の子どもや若者たちは、正規の教育を受ける機会を奪われています。難民キャンプ内にはユニセフなどの国連機関や国際NGOなどが運営する非公式な学習センターや臨時の教室が設けられていますが、資源は限られ教師の数も不足しているため、教育の質は十分とはいえません。若者や大人に対する職業訓練やスキルアップへの支援も必要とされています。
サッカーボールで遊ぶロヒンギャ難民の男の子たち
危険な移動の増加
定員をはるかに超える脆弱なボートでインドネシアなどを目指すロヒンギャ難民が激増しており、先の見えない難民キャンプでの暮らしや、故郷ミャンマーで再燃する迫害から逃れようと命がけの航海に踏み切っています。国連UNHCR協会によれば、2024年だけで海路に出たロヒンギャは7,800人超と前年比80%増に達しました。2025年5月にはミャンマー沖で2隻のボートが相次いで沈没・転覆し、乗船514人のうち推定427人が命を落とすという痛ましい事故が発生しました。
- 出典:「今、ロヒンギャ難民が直面する危機」(国連UNHCR協会)
ロヒンギャ難民に対する国際社会の対応と日本に期待される役割
ロヒンギャ危機は長期化し、国際社会の協調と日本の関与が一層求められています。それぞれに期待される具体的な役割を見ていきましょう。
国際社会の対応は
ロヒンギャ問題に対し、国際社会はさまざまな方法での支援活動を展開しています。国連をはじめとする国際機関は、人道支援や基本的人権の保障を呼びかけています。また、多くの国々やNGOがロヒンギャ難民への支援活動を行っており、医療や教育、生活基盤の整備に力を入れています。しかし、ミャンマーの政治的な問題や安全保障の観点から、解決への道のりは依然として遠く困難を極めています。
日本に期待される役割
ロヒンギャ問題において、日本や日本政府には、人道支援や国際社会での架け橋としての役割を果たすことが期待されています。2024年5月に訪日した、アウンサンスーチー氏を支持する民主派による「統一政府」(NUG)の代表らも、会見で日本にリーダーシップを発揮してほしいと述べています。さらに、ミャンマー国軍が掌握した地域を民主派が奪還したものの妨害により医療品が行き届かず、医療が武器として利用されているとして国軍を非難し、国際社会に支援を訴えました。
【ロヒンギャの若者の教育支援】プラン・インターナショナルの取り組み
若者が読み書き・計算を身につけ、尊厳を取り戻すことこそが持続的な解決への第一歩──。
国際NGOプラン・インターナショナルは、コックスバザール県のロヒンギャ難民キャンプで、識字教育プロジェクトを実施しています。
目的
15~24歳のロヒンギャの若者に識字教育の機会を提供し、自己決定力を高める。
具体的な活動内容
- バングラデシュのコックスバザール県にある難民キャンプ内に24カ所の学習スペースを新設し、計720人が基礎教育を受講。
- コミュニティから36人をボランティア教師として選抜し、教授法や子どもの保護研修を実施。
- 授業後にはサッカーや演劇など余暇活動を取り入れ、心のケアを図る。
こうした取り組みを通じ、「支援を受ける側」から「地域を支える側」へと若者たちが成長し、将来的には自ら識字クラスを運営できる体制づくりをめざしています。
「ロヒンギャ難民の識字教育」プロジェクト(バングラデシュ)
プロジェクトに参加した若者の声も届いています。実話をもとにしたイラストストーリーをご覧ください。
ロヒンギャ難民支援のために私たちにできること
ロヒンギャの若者の多くは公的教育を受けられず、将来の選択肢が極端に限られています。教育がなければ技術や知識が身につかず、貧困から抜け出す機会を失い、人道危機が世代を超えて固定化されてしまいます。
その連鎖を断ち切る鍵が「識字教育」です。文字を読み書きできるようになることで情報にアクセスし、自らの権利を主張し、収入を得る道を開くことができます。

プラン・インターナショナルが運営する難民キャンプ内の識字クラス
プラン・インターナショナルの「プラン・グローバルサポーター」として継続的にご寄付をいただくことで、学習スペースの運営費や教材費、ボランティア教師研修などに充てられ、若者たちが「自らの力で未来を築く」ための確かな土台となります。
あなたの支援が、難民キャンプに生きる若者にとっての希望の灯となります。
運営団体
国際NGOプラン・インターナショナルについて
国際NGOプラン・インターナショナルは、誰もが平等で公正な世界を実現するために、子どもや若者、さまざまなステークホルダーとともに世界80カ国以上で活動しています。子どもや女の子たちが直面している不平等を生む原因を明らかにし、その解決にむけ取り組んでいます。子どもたちが生まれてから大人になるまで寄り添い、自らの力で困難や逆境を乗り越えることができるよう支援します。










