(2024年10月29日更新)
アドボカシーグループの長島美紀です。9月30日から3日間、ブラジルのリオデジャネイロで開催された、W20(Women20)会議に参加してきました。11月18日・19日に開催されるG20サミットを前に開催されたこの会議では、女性の経済的エンパワーメントとジェンダー平等に焦点を当てた話し合いが行われ、最終的に各国デレゲートらによるコミュニケ(提言)がG20のシェルパ※に手渡されました。
今回のW20で、どのような議論が行われたのかご紹介します。
- ※首脳の補佐役としてサミットの準備を主導する各国政府高官
G20サミットとは
G20サミットは、世界経済の安定と持続可能な発展を目指し、毎年開催される国際会議です。アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、メキシコ、韓国、南アフリカ共和国、ロシア、サウジアラビア、トルコ、英国、米国の19カ国に加え、欧州連合(EU)、2023年からはアフリカ連合(AU)も参加しています。
G20の正式名称は「金融・世界経済に関する首脳会合」です。世界のGDPの8割以上を占める「国際経済協調の第一のフォーラム」として、G20は「世界経済の力強い成長」を目的としています。サミットでは、経済政策だけではなく、経済成長に深刻な影響を及ぼす気候変動やエネルギー問題、紛争や難民問題なども取り上げています。
G20サミットを開催する議長国は、参加国が持ち回りで務めます。12月から翌年の11月までの1年間、G20議長国として、サミットの他に、関係閣僚会合や準備会合などを担います。2024年の議長国はブラジルでした。
W20サミットとは
G20サミットの特徴のひとつは、「エンゲージメント・グループ」と呼ばれる、国際社会におけるステークホルダーにより形成された、政府とは独立した団体による活動です。エンゲージメント・グループは、経済団体(B20)、市民社会(C20)、労働組合(L20)、科学者(S20)、シンクタンク(T20)、都市(U20)、女性(W20)、ユース(Y20)など、の各国団体の代表で構成され、G20で議論される各関心分野について、提言をコミュニケとしてまとめ、G20各国の政治リーダーに政策への反映を促します。エンゲージメント・グループの運営は、議長国から選ばれた運営主体が担っています。
そのエンゲージメント・グループのひとつが、今回私が参加したW20です。W20は、G20を構成する20カ国それぞれの基準で選ばれたデレゲート(代表)によって構成されます。デレゲートは、それぞれの専門に基づき、W20を主催する議長国のデレゲートが設定したテーマごとのワーキンググループの議論に参加し、最終的にコミュニケの作成を目指します。2024年のテーマは女性起業家の育成と投資、ケア経済、STEM、気候正義、ジェンダーに基づく暴力の5つとなりました。
コミュニケが示す日本の課題
3日間にわたる会議では、初日に各国デレゲートによるコミュニケの最終版の承認の後、2日目に開催された一般公開のイベントで、G20議長国へのコミュニケの手交も行われました。この一般公開イベントには、リオデジャネイロの市内音楽ホールが満席になるほどの700名以上の女性団体や関係者などが集まり、W20への関心の高さが伺えました。
女性の経済エンパワーメントの重要性
コミュニケの特徴のひとつは、G20が世界経済の力強い成長を目的とすることを背景に、女性の経済エンパワーメントの重要性に焦点が当てられていることです。女性の起業支援やそのための資金調達、各国の労働市場における女性の参加率の上昇と正規雇用の拡大は、日本を含めた各国で、それぞれの国の経済事情による差はあるものの、共通した課題となっています。
W20のコミュニケでは、各国の政治リーダーに対し、2014年のG20サミットでの「2025年までに労働参加率の男女間格差を25%減らす」という合意事項(ブリスベン合意)の実施あたり、単に労働参加率における女性比率の向上を目指すのではなく、「男女間の賃金格差の解消」と「質の高い雇用・職の創出」がセットで議論され、政策策定を行う必要があるという認識が共有されました。
日本ではブリスベン合意の数値は達成している一方で、男女間の賃金格差は依然として深刻です。男性の賃金を100とした場合、女性は77.2で、OECD諸国の平均(88.4)より低い状況にあります(内閣府男女共同参画局HP)。
男女間賃金格差と国際比較(内閣府男女共同参画局HP)
また、経済成長を阻む要因である、無償ケア労働の女性への不公正な負担についても、日本では女性の家事負担は男性よりも多いというデータが出されています。内閣府の調査でも、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」(性別役割分担意識)に反対する者は6割程度であるものの、実際は妻が「家庭を守る」役割を果たしている夫婦がほとんどであることが指摘されています(内閣府男女共同参画局HP)。
ジェンダーの視点にたった気候変動対策/ジェンダーに基づく暴力の防止
さらにコミュニケが取り上げた、気候変動による女性や女の子への影響、そしてジェンダーに基づく暴力の解消は欠かせません。日本では近年、台風や線状降水帯による大雨が引き起こす土砂水災害など多発していますが、その中で避難所におけるジェンダーに配慮した支援や物資配給なども議論されるようになっています。2023年4月に策定された、安保理決議第1325号(女性と平和・安全保障の問題を明確に関連づけた初の安保理決議)等の履行に関する第3次行動計画においても、防災や災害対応、気候変動対策への女性の参画を促し、あらゆることにジェンダーの視点を取り入れていくことを意味する「ジェンダー主流化」が謳われています。
ジェンダーに基づく暴力は、ジェンダー格差を固定化させ、女性のエンパワーメントを阻む大きな要因です。会議3日目には、日本を含む参加国がW20開始以来取り組んできた政策の進捗状況が共有されました。そのなかで、昨年日本社会に大きな衝撃を与えた旧ジャニーズ事務所代表による性加害問題を紹介するとともに、公共交通機関における痴漢など、ジェンダーに基づく暴力の課題が深刻に残されていること、暴力問題の解決がジェンダー平等に重要であることが強調されました。
インターセクショナリティ(交差性)を考える
W20サミットで披露されたアートパフォーマンス
今回のW20の特徴のひとつは、議論の当初から「インターセクショナリティ(交差性)」の重要性が繰り返し強調されたことです。これは、人種や性別、階級、セクシュアリティ、国籍、世代などの個人の属性が相互に関係し、差別や抑圧を生じさせる概念のことで、「複合差別」とも呼ばれています。
会議2日目には、ブラジルの先住民族女性によるアートパフォーマンスが行われました。先住民族の知恵を活かした自然との共生という伝統的知識の活用や、彼らの経済的な機会の創出のあり方も議論されました。
インターセクショナリティの問題は、日本では例えば、障害のある女性や海外にルーツを持つ女性、高齢の女性に対して、差別や偏見、就学や就労時の不利益といった形で生じます。女性は決して一枚岩ではなく、多様な属性を持っていることが、この会議では改めて強調されました。
G20の持つ意味を考える
3日間の会議全体を通じて感じたのは、G20を構成するグローバルサウスの持つ勢いと、気候変動をはじめとするグローバル課題に対して、日本を含めたグローバルノース(先進国)に具体的な責任を求める姿勢です。
2日目の会議でコミュニケを受け取ったG20サブシェルパのフェリペ・ヒース(Felipe Hees)氏は、G20サミットでもテーマとなる気候変動問題について、「気候変動を引き起こした経済活動を行ってきたグローバルノースこそが、気候変動対策資金を拠出する責務がある」という指摘を、2日目の会議でも行いました。また、W20で今後作成予定のアクションプランでも、急成長している気候変動分野や農業技術分野への女性の参画を達成するための道筋を示すことで、女性起業家への公共調達やサプライヤーダイバーシティ※の促進などが期待されています。
こうした流れは、日本政府にとっても、また日本企業にとっても無関係ではありません。いかに多様性に配慮し、気候変動をはじめとするグローバル課題に向き合うのか、今後さらに注力して考える必要があります。
- ※サプライヤーダイバーシティとは
多国籍企業が女性や障害者、LGBT、退役軍人などのマイノリティが所有する企業を、商品やサービスを提供するサプライヤーとして受け入れる取り組み。購入意思決定の85%は女性によるものだが、大企業や政府が女性所有の企業をサプライヤーとして受け入れる割合は1%にも満たない現状があると指摘されており、マイノリティサプライヤーの割合が著しく不均等という問題が、世界のダイバーシティ社会における課題となっている。
会議にて
W20ブラジルサミットには、W20日本デレゲートとして2回目の参加となりました。前回のインドに続き、議論のダイナミズムと女性のエンパワーメントの具体的な道筋、そして日本を含めた先進国が果たすべき責任の意味を考える3日間でした。プランでは引き続き、女性のエンパワーメントのあり方について、各国のNGOやフェミニスト、研究者たちとともに考え、提言したいと考えています。






