(2026年07月10日更新)

家庭、仕事、恋愛など、日常のあらゆるシーンで「自分の意思を抑え込む」こと、ありませんか?
たとえば──
- 家庭で、親からの言葉で進路を決める
- 仕事で、愛想や気遣いを求められる
- 恋愛で、対等な関係を築けない
なぜ多くの女の子が、自分の気持ちを抑え込んだり、空気を読んだりしてしまうのでしょうか?
そこには、ジェンダーにまつわる社会的な規範や思い込みが隠れているかもしれません。
今回は、ジェンダー問題にくわしい弁護士・細谷夏生さんに、問題にひそむ背景と解決のヒントを聞きました。ぜひ最後までご覧ください◎
細谷夏生
弁護士。東京大学法学部卒業。米コロンビア大学ロースクールを経て、国連女性機関(UN Women)にて「女性に対する暴力撤廃」部門を担当。現在は「西村あさひ法律事務所・外国法共同事業」にて、DE&I、ジェンダー、人権、サステナビリティ分野を担当しつつ、同性婚訴訟などのLGBTQ問題、SRHR分野など、ジェンダー平等の実現に向けて多方面で活躍中。
【家庭】親の意見で、選択肢を狭めてしまう
── まずは「家庭」について。進路や将来について、自分の意思よりも親の意見を優先する人は多いと思います。どんな問題がひそんでいますか?
親の発言が、子どもの進路に影響を与えることは、少なくないと思います。
そして、親の発言は、時に子どもの性別によって変わることがあります。
つまり、男の子と女の子で、進路について異なる期待を向けることがあるのです。
たとえば、娘に対しては「女の子なんだから、良い大学に行かなくていい。自宅から通える大学にして、浪人はダメ」。息子に対しては「男の子なんだから、国立の理系に行きなさい。浪人したって有名な大学に行くべき」と。
私の両親もどちらかというとそういうタイプでした。子どもの頃、父から「男らしさと女らしさが大事だ」と繰り返し聞かされたことを覚えていますし、母にいつも言われていたのは「ママの夢はあなたのウエディングドレスを一緒に選ぶこと」でした。
私が好きだったのは料理より工作、ウエディングドレスよりもビジネススーツにあこがれていたのですが。
── 男女で親から期待される役割の違いが、はっきり表れているように感じます。
そうですね。ただ、多くの場合、親に悪気はなく「良かれと思って」言っているんですよね。
たとえば、うちの母は20代で子どもを産み育て、いまは可愛い孫もいて幸せな人生を送っている。
彼女の人生が幸せだから、自分が経験した幸せを、自分の娘に経験してほしいだけなんですよね。彼女なりの優しさというか、幸せを祈るからこその発言です。
ただ、このように親世代からの影響を受けた子どもたちが、その価値観の影響を受けたまま進路選択をして、大学に入り、企業に入る。そして家庭を持って、子どもに伝えていくことになります。
── 進路だけでなく、人生全体に影響を及ぼしているのですね。
親だけでなく「先生」の影響も大きいと思います。
先生が「女子なら文系科目が向いているはず」「男子は理系を目指してごらん」とアドバイスをすると、10代の子どもたちは素直に受け止めます。実際には、ジェンダーが人の適性を決めないことは、マリ・キュリーの時代から、たくさんの偉人たちが証明しているとしても。
ベテランの先生のアドバイスは、偏見だけではなく、長年生徒を見てきた経験に基づいていることも多くあります。
たとえば、「得意教科があまりない」という生徒がいたときに、男子なら理系を、女子なら文系を勧めてみる。すると最後の1年で成績がグッと伸びた──という長年の経験を基にアドバイスをしているなどです。
それ自体は教育者として大切な視点であり、一概に悪いこととはいえません。
ただ、もしかすると、その先生たちは、女子に理系を、男子に文系を勧めてみたことはないのかもしれません。それはなぜでしょう?
先生たちには、自身の経験やアドバイスが「ジェンダー規範※からきていないか」、またそのことに「自覚的であるか」を、ぜひ一度考えてみてほしいです。
※ジェンダー規範とは?|社会や文化によって形作られた「女性(男性)はこうあるべき」という固定観念や期待のこと。
選択するときは「感性」を大切に
── 親や先生が進路選択に与える影響は大きいですが、ユース自身が何かできることはありますか?
私が伝えたいのは「自分の感性」を大事にしてほしいということです。
年上の人から経験に基づいて話されると、反論しづらいと思います。
ジェンダー問題を抜きにしても「たくさんの経験をしてきたから、あなたにこうアドバイスをしている」と言われると、ユースは経験が少ないので、反論材料がないですよね。
ただし、そういう人たちの「経験」自体が、もしかしたら前の時代のジェンダー不平等な社会規範に基づいているかもしれないですよね。
自分には経験がなかったとしても、それはむしろ「自分にはバイアスがないんだ」とポジティブにとらえる。
そのうえで「自分はこうしたい」と、自身の感性を信じて、自信を持って選択してほしいと思います。
【仕事】男女比が違うと、扱いに差が生まれる

── 次は「仕事」について。
仕事では、男女で扱いに差があり、モヤモヤする人も多いかと。なぜ差が生まれるのでしょうか?
組織のなかでジェンダーによる役割意識(女性/男性はこうあるべき)が起きると、本人のやりたかった選択肢が狭まったり、キャリア形成に大きく影響したりします。
背景のひとつに、組織の男女比の偏りがあると考えています。
組織のなかで男女のどちらかが少ない状態が一定期間続くと、力関係が偏り、差別やハラスメントなどの原因になったり、性別に基づく役割や扱いの差異を生じさせたりすることがあります。
特に、法曹界、医者、STEM分野など、女性が少ない分野ほど起きがちかと。
昨今は、それらの分野でも採用で男女比5:5を目指す傾向がありますが、そもそも分野全体の女性の数が少ないため、不公平な構造が生まれがちです。
たとえば法曹界だと、採用候補者(司法試験合格者)の割合は、男性約7割:女性約3割です※。
採用候補者の男女比が違うのに、弁護士事務所の採用時に完全に男女比5:5を実現しようとすると、男女で採用基準が異なってしまうなど、歪みが発生する可能性があります。
本来は能力のある人をしっかり採用しつつ、将来的に男女比が5:5になっていくことが、ジェンダー平等の達成には重要なはず。
そのためには、その分野全体で男女比5:5を実現することが必要で、まずは男女関係なくその分野を目指してもらう必要がありますよね。
私が務める弁護士事務所では、そのような考えに基づき、中高での法教育に力を入れることで、法曹界を目指す女性を増やす活動に取り組んでいます。
ハラスメント対策は「自分の気持ち」を大事に
── 職場で何かしら不快感を覚えても「自分が気にしすぎなのかも…?」と我慢する人も多いかと。
ハラスメントかも・・・と立ち止まる目安はありますか?
法律的にはセクハラやパワハラの定義はあります。
ですが、「ハラスメントかどうか」という定義自体は重要ではないのです。
たとえば、飲み会で隣に座った異性のプライベートパーツに触れながら「君、すごく綺麗だね」と言ったら、完全にセクハラです。
それが別のシーンの場合。オフィスで会ったときに、3メートルほど距離を保った状態で「君、すごく綺麗だね」と言い、頭から足先まで全身を値踏みするように見てきた場合、法的にはセクハラに該当すると言い切れないこともあるんです。
でも、法律というのは、絶対の基準ではありません。
「嫌なこと」「されたくないこと」は人によって違います。
社会ではどこかで「法的にやってはいけないこと」の線を引く必要がありますが、それは、全ての人の「嫌なこと」「されたくないこと」の基準をそこに合わせましょうということでは決してありません。
私が言いたいのは、法律や社内規則に当てはめてハラスメントかどうかを考えるのではなく、「自分の気持ち」で考えてほしいということ。
嫌だと思う感覚は、人それぞれ違うものです。
他の人が気にならないとしても、「自分は嫌だな」「不快だな」と感じたなら、その感覚を否定しなくていいんです。その感性を大事にしてほしい。
もちろん、正面から「嫌です!」「これはハラスメントです!」と主張して戦うのも正解です。
それ以外にも、反応しなかったり、その場を離れたり、その人と関わらないように行動を取るのでもOK。
あとから「自分の対応は間違っていたかな…」と自己嫌悪しなくて大丈夫。大事なのは自分の気持ちを守ることですから。
【恋愛】性的同意は2人で考えよう!

── 次は「恋愛」について。
男女のトラブルで多い「性的同意」について、あらためて教えてください。
レイプや性加害は論外として、一般的な恋愛における「性的同意」の話をしていきます。
「性的同意」の基本的な考え方は「YES means YES」「NO means NO」、同意のない性行為はNOになります。紅茶を飲むたとえ話 Consent – it’s simple as tea(日本語版)が有名ですね。
ある学校で講演をしたときに、性的同意について一通り説明する機会がありました。
そのあとの質問コーナーで、ある男子生徒がこう質問してくれたんです。
「性的同意が大事なのはわかりました。ですが、何回も『していい?』『大丈夫?』『嫌じゃない?』と聞くのは“男らしくない”って女の子に思われそうで…どうすればいいですか?」
この質問を受けたとき、私はすぐに答えられませんでした。
なぜなら、同意を確認される側(この場合なら女性側ですね)も、はっきりと意思表示することにためらいを感じやすく、そこにもジェンダー規範の影響があると感じたからです。
男性は幼少期からリードすることが「男らしい」とされ、女性は慎ましさや恥じらいが「女らしい」とされがちです。
両者がそうした規範の影響を受けているなかで、果たして明確なYES・NOが言えるだろうか?と。
── たしかに、性的同意のルールは大事な一方で、実際の現場ではどうすればよいか、意外と難しそうです。
私が「性的同意」について考えるとき、ジェンダー規範のなかで、意思確認のコミュニケーションが難しくなってしまう場面があると感じます。
たとえば、「してもいい?」と聞かれたときに、相手がはっきり言葉にしづらいこともあります。「恥ずかしい」「どうしようかな」といった、曖昧な反応になってしまうことも多いのでは。また、確認する側も、「嫌よ嫌よも好きのうち」などという古い考え方の影響を受けて、相手の反応をストレートに受け止められないこともあるかもしれません。
でも、「嫌」は「好き」ではないし、「どうしようかな」は「YES」ではありません。
相手の曖昧な反応を都合よく解釈せず、きちんと確認することが大切です。
ただし、その場合は、確認される側も、曖昧な反応をしても相手が自分の気持ちを汲み取ってくれるだろうと期待するのではなく、自分にとって伝えやすい方法で良いので、自分の意思をしっかり伝えることが必要です。
── たしかに…どちらか一方だけにコミュニケーションの負担が偏らないことが大切ですね。
本来「性的同意」のためのコミュニケーションは、双方が大切にすべきものです。
たとえば、「男性は常に加害側、女性は被害者側」「(性行為は)男性が責任を引き受けるもの」といった固定的な意識もなくさないといけないと思っています。
どちらか一方だけが確認役を担うのではなく、どちらも自分の意思を伝え、相手の意思を確かめる姿勢が大切ですよね。
「ジェンダー平等」とは、性別にかかわらず、誰もが平等に権利や機会を持ち、尊重されること。権利と責任はセットです。
双方がしっかりとコミュニケーションの責任を持つ。
ただ、コミュニケーションには正解はありません。カップルの数だけ、関係性の数だけベストなコミュニケーションがあるはずですから。
自分のなかの「女性らしさ」を問い直す

── 小さい頃から「空気を読むこと」や「我慢すること」を身につけてきた人も多いと思います。
その思考から抜け出すためには、何が必要だと思いますか?
オススメなのは、自分自身に聞いてみること。
自分のなかに「理想の女性像」や「女性らしさ」がないか、それにとらわれていないかを。
たとえば、企業の方から女性活躍についてご相談いただくことが多いのですが、みなさんおっしゃるのは、「男女で自己アピールの仕方が違う」ということです。
同程度の能力を持つ男女がいたときに、同程度のチャレンジャーアサインメント※の機会を提供すると、女性は「できるか分からないですが…」と控えめな一方で、男性は「とにかくやってみます。チャレンジしたいです!」と、意欲の見せ方に差が出ることがあるそうです。
※チャレンジャーアサインメントとは?|上司が部下に対して、あえて負荷の高いタスク(リーダー経験、未経験の仕事)を与えることで、成長を促進する方法。
その話を聞いたとき、「あ、私にもそういう一面あるかも」と思ったんです。
自分のなかに「素敵な女性像」がある。彼女は控えめで上品だからきっとこう言うはずだと。
「私じゃ力不足かもしれないですけど、もしそう思っていただけるなら…」「できるか分かりませんが…精一杯頑張ってみます」など。
私が「内なる女性らしさ」に気づいたのは、留学後にUN Womenに入ってからでした。
UN Womenは、女性の地位向上を目指す国連の組織。女性ばかりの組織で、私の部署は全員女性でした。
そこで私が上司に自己アピールをする場合、「えっと…私だとちょっと力不足なので…」「できるか不安ですが…」と言えば、単に自信がないだけの人に見えるんですよ。
全員女性なので、職場に「女性の役割」を持ち込む必要がない。考えてみると、仕事に「女性らしさ/男性らしさ」を持ち込むこと自体が変ですよね?
そこに気づかされた環境でした。
まとめると、何かを我慢したり、空気を読んだりする、という選択をする際に、自分のなかの「女性らしさ」や「思い込み」がないかを、一度考えてみてください。
社会は変わるからこそ「感性」を大事に
── いろんなお話を伺いましたが、最後にユースに向けてメッセージをお願いします。
一つ目は、いまの「社会規範」や「法律」が絶対ではないということ。
十数年前、女性社員がセクハラまがいのことをされても「社会人だからそれぐらい我慢すべき」という風潮がありました。
今は大問題ですが、当時は誰も問題意識を持っていなかった。つまり社会規範や常識は時代によって変わっていくものです。
さらにいえば「法律」も絶対のものではありません。
社会が変わり、ニーズが出てきたら、新しく作ったり、作り直したりしてもいいんですよね。
今後どう変わっていくかは、それこそユース世代の声や行動が大きく関わってきます。
二つ目は「感性」を大事にしましょう、ということ。
法律も社会も変わっていくものだからこそ、何かに触れたときに「自分はどう思うかな?」「自分ならこう考えるかな?」という意識を持ってほしい。
社会運動に関しても、最初から「社会を変えよう!」と大それたことをしなくとも、日々の生活のなかで、自分が思うこと、自分が感じることを大事にして行動する。
その積み重ねの結果として「よい社会に変わっていく」と、私は思っています。
***
幼少期から自分の意思を抑え込んだり、周囲の空気を読んだりすることを求められてきた方にとって、自分の気持ちや感覚を大切にするためのヒントがたくさんあったのではないでしょうか。
ぜひ、ご自身の感性を大切にしながら、自分自身を見つめ直すキッカケにしてみてください。
国際NGOプラン・インターナショナルでは、ジェンダー平等を実現するべく、女の子と女性のエンパワーメントに力を入れています。
女性が少ないとされるSTEM分野に関する調査、イベント実施など、企業や教育機関とともに、ジェンダーギャップ解消に向けたさまざまな取り組みを行っています。
関心を持ってくださった方は、ぜひ他の記事もチェックしてみてください◎







