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シリア危機はまだ終わっていない~レバノン~
理事長
池上 清子
Asiaアジア
理事長ブログ
(更新)
2019年7月から、プラン・インターナショナルの新年度が始まりました。危機状況下にある難民などの「取り残された人々」、なかでも女の子や女性たちの支援は、今後の活動でも最優先したい課題です。そこで2019年6月、シリア難民の支援を目的に新たに活動を開始したレバノンを視察しました。現地で出会った難民の人々の暮らしや、プランの活動をご紹介します。
6人に1人の住民がシリア難民
プランは2017年にレバノンに事務所を開設しました。状況がさらに悪化し、増加しているシリア難民支援を本格化させるためです。特筆すべきことは、レバノンにはトルコに次いで2番目に多い、約93万人※1のシリア難民が暮らしていること。実に住民の6人に1人※2が難民なのです。国の北東をシリアに囲まれたレバノンでは、実質入国管理が難しく、実際にはさらに多くの難民が暮らしている可能性もあります。レバノン人の側から見ると、食料、エネルギー、インフラや経済活動などあらゆる面で、大きな負担となっているのが現実です。そのような状態が続くと、住民の不満は難民にむけられる危険もあります。
※3:数字はUNHCR OPERARIONAL PORTAL REFUGEE SITUATION 04Jul2019
実際にレバノン人よりもはるかに低い賃金で、レバノン人が嫌がる仕事をしている難民たちに「自分たちの仕事を奪っている」という声が高まってきています。こうした状況をなくすため、難民を受け入れる国々に対しても、国際機関やプランのようなNGOによる支援が必要なのです。
- ※1:UNHCR OPERARIONAL PORTAL REFUGEE SITUATION 04Jul2019
- ※2:ユニセフ世界子供白書2017
難民として生きるということ
レバノン政府はパレスチナ難民を受け入れた経験から、国際機関による難民キャンプの設置を認めていません。このためシリアからレバノンに逃れた人々は、国連難民高等弁務官(以下、UNHCR)から受け取った簡易テントを自力で立てて暮らすなどしています。
難民たちの簡易テントが立ち並ぶ
今回、私が訪れた首都ベイルートから車で2時間ほど離れたキアム市でも、一時しのぎのテントが30ほど並んでいました。電気は通っていますが、水道はありません。土地はレバノン人に借りていることから、難民は賃料をおさめるかわりに、農作業などの労働力を提供しています。ときには子どもが農作業を手伝うこともあります。UNHCRから一人当たりひと月16ドルの支援金を受け取ることができますが、子どもへの支給は5人までと制限されています。子どもが多い家族はこれでは暮らしていけません。生計をたてるために、多くの難民がやむなく低賃金かつ劣悪な労働条件下で働いているのです。
女性たちが抱える課題とプランの支援
プランはキアム市で、シリア難民の女の子や女性たちの性と生殖に関するプロジェクトを行っています。シリアでは社会的な理由から、多くの女性が家族計画や出産などを、自主的に決定することが難しい状況にあります。このため、母子保健の向上とか「ライフスキルトレーニング」とかの名前に変えて活動をしています。
地域センターを利用するシリア難民の若者
地元で産婦人科医やクリニックを有するパートナー団体と連携し、思春期の女の子の保健のニーズに応えたり、母親学級で育児の相談に乗ったり、女性特有の健康問題に関する診察や治療などを包括的に行っています。
この活動は武田薬品工業株式会社の支援によって、実現しています。プランの事務所を立ち上げたひとりでもある、レバノン人の職員マリアンは、次のように話してくれました。
「この活動にとても感謝しています。この分野での活動は初めてなので、準備に時間がかかりました。性と生殖に関するプロジェクトは、個人のプライバシーに関わり、文化的にもさまざまな考え方があるため、慎重に扱う必要があります。そのためには十分な専門性も必要です。私たちプランのスタッフも専門性を高めて活動を行っています」
女の子たちが問題をお互いに話し合う
一方、難民の女性をめぐる過酷な話も聞きました。マリアンによると「シリア難民の女性は、国外に出るまではシリア軍隊に、レバノンについてからはレバノン警察に、暴力を振るわれたり、性的嫌がらせを受けたことで心的外傷(トラウマ)を負い、精神を患ったり、体調を崩したりする人もいる」というのです。しかしそうした女性たちは、母親学級などで友だちを作り、辛い経験を話せるようになることで、次第に精神的な落ち着きを取り戻すこともあるそうです。この話を聞いて、活動の意義を改めて実感しました。
より困難な状況に置かれている女の子や女性たちに
今回の訪問で、シリア危機は終わっておらず、シリア難民の苦難も続いていることを痛感しました。約563万人※3のシリア難民が難民として世界中に逃れているという現実をみると、「誰ひとり取り残さない」という持続可能な開発目標(SDGs)の達成のために、私たちプランがやるべき仕事は山積しています。
母親学級に参加した赤ちゃんと
プラン・スポンサーシップを通じた長期的な地域開発は紛争予防にもつながり、ますます重要性を増します。一方、社会課題の複雑化に伴い、レバノンのようなテーマを絞った支援も必要なケースが増えるでしょう。団体としての専門性や能力を高める努力を惜しまず、新たな年度にむけても邁進していきたいと思います。
- ※3:ユニセフ世界子供白書2017
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