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子どもを育てるのは、村全体の仕事:シリア難民キャンプを訪ねて~ヨルダン~(後編)
理事
大崎 麻子
アジア
(更新)
公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンの理事大崎麻子が、2019年8月にヨルダンのプランの活動を視察しました。町から遠く離れた砂漠の中に設置された広大なアズラック難民キャンプに暮らす人々とプランの支援について報告する後編です。
10代の子どもたちを取り巻く課題
隔離された「Village 5」の視察で、子どもたちの活動に続き10代の若者たちのための「ライフ・スキル※」クラスの卒業生で構成するユース委員会のミーティングに参加しました。自分たちが暮らすコミュニティの課題を考え、解決策を提案し、実行しようという取組みです。すでに、「教育」「健康」「安全なスペース」の3つのテーマについての問題を提起し、働きかけをしていました。
ユース委員会のミーティング
- ※ライフ・スキルとは:WHOが定義した、人間として生きていくために必要な力。意思決定や問題解決、対人関係やストレスをコントロールできる能力などが含まれる。
学校が楽しくない…
「教育」についての問題提起のなかで、「先生の質」の問題があがりました。難民キャンプ内にも公教育の場はあるのですが、子どもたちは、学校や先生を選べません。そのようななか、先生が遅刻・早退を繰り返したり、スマホばかり見ていたり、生徒たちを適当にあしらったりすることに、がっかりし「学校に行きたくない」という子どもも少なからずいます。
委員会で活動について発表
元ヨルダン・タイムズの記者で現在プランの広報を務めるジャサ職員が、ヨルダン社会の現状を説明してくれました。ヨルダンは、「観光業」がおもな産業ですが、隣国シリアの紛争を機に観光客が激減し、税収が大幅に減少。公教育への予算がさらに減り、教師の給与水準も下がる一方で、難民キャンプで質の高い教師を確保するのは大変難しいそうです。※
そこで、ユース委員会は、「先生の質」に関する問題提起を行い、コミュニティ・リーダーや自分たちの保護者に掛け合い、改善にむけて、学校と対話してもらっているそうです。
- ※2019年9月には、教職員による賃上げを求める全国ストと抗議活動が行われました
安全な環境を確保
そのほかに、キャンプをより安全な場所にするための活動をしています。キャンプ内には使われなくなったコンテナの家が放置されています。そこへ女の子が連れ込まれたり、子どもが遊んで怪我をしたりするなどの危険があるため、撤去を求めました。それを受けて、プランやほかのNGOが協力して撤去に至ったそうです。さらには、子どもたちが集い、安全に遊べるスペースを作って欲しいという提言も行っています。
活動発表のあと、「みんなは、自由な時間にどんなことするのが好きなの?」と聞いてみると、それまでの真剣な表情から一転し、コロコロと笑いあいながら、「お話を書くこと」「英語の小説を読むこと」「スマホでゲームすること」「SNSを更新すること」「妹たちと遊ぶこと」と口々に答えてくれたのが印象的でした。
学習中の英語で一生懸命話しかける女の子
夢と現実のギャップ
難民キャンプでもインターネットは繋がるので、スポーツ、アニメ(ワンピースとNARUTOが大人気)、小説、ポップミュージックなど、外の情報はたくさん入ってきます。難民キャンプだけでなく、都市のコミュニティで生活しているシリア難民の10代の若者と話をするなかで、「海外に行きたいから、スマホのアプリを使って語学を勉強している」という子が複数いました。技術革新のおかげで、情報、知識、スキルの習得は、今は、どこにいてもできます。
複数のSNSアカウントを使い分けている、と画面を見せてくれた男の子
しかし、実際に進学、留学、就職となると、いくつもの壁が立ちはだかります。子どもたちが希望を持って勉強を続けた先に、どれほどの選択肢があるのか。それが大きな問題だと痛感せざるを得ませんでした。
ボランティアたちの活躍が支える活動
「Village 5」では、外からの訪問者の滞在時間にも制限があります。「時間ですよ」と促されながら、最後に歓談したのは、プランの活動に協力してくれているボランティア(=難民)の皆さん。プランの活動に欠かせないコミュニティ・ボランティアが、難民キャンプでも大活躍していました。
アートクラブの先生や音楽クラブの先生、ユース・コミッティーのファシリテーターも皆、ボランティアです。アズラック・キャンプで活動する数ある団体の中から、「プランの活動はポジティブ・インパクトをもたらしてくれたから」「プランの活動の仕方に賛同するから」という理由で、プランのボランティアになりたいと名乗りをあげてくれた大人たち。「ペアレンティング・クラス」の卒業生たちもいます。
音楽のクラスを担当するボランティア
難民として、親として、ボランティアとして
「ペアレンティング・クラス」もプランの支援活動の特色の一つです。不安やストレスを抱えているのは、子どもたちだけではありません。子どもたちが健やかな日常を過ごすには、親や家族の気持ちや生活が安定していることも必要です。そこで、プランは、不安や怒りをコントロールする方法、子どもたちに対して適切な言葉を使ってコミュニケーションを取る方法などを学ぶクラスを開講し、親子双方に働きかけているのです。さらに、そのなかで、各家庭が抱える問題が見えた場合には、ケースワーカーを通じて適切な支援に繋げています。
感情の現し方について説明するボランティア
「子どもたちのことをケアしているよ、という大人が周りにいることが大切だと思う」「日本から来てくれてありがとう。日本の人たちが、自分たちのことをケアしてくれていると思うと、とてもうれしい」「ヨルダンには、自分たちのbrothersのように接してくれる人が多くてありがたい」と堰を切ったように話してくれるボランティアの方々。
ボランティアの皆さんと。自らも難民
その中に「今週、一番の成果は、花壇を作ったことだよ!」と満面の笑みで教えてくれた男性がいました。子どもたちが「自然が恋しい」「緑やお花が恋しい」と言うのを聞いていたのでしょう。コンテナの脇の丸い花壇に、たくさんの苗木が整然と植えられていました。炎天下、汗を流しながら、一つひとつ、植えている男性の姿を想像し、胸が熱くなりました。
ボランティアの方々が作った花壇
支えあい困難に向き合う
解決の目処が立たない、シリア情勢。不幸にも、このタイミングで、かけがえのない子ども時代を過ごさなければならない子どもたちにとって、身近な大人たちに大切にされ、守られながら、成長することが何よりも必要なことです。プランの支援の特徴は、子どもたちだけに働きかけるのではなく、親、そしてコミュニティの大人たちにも働きかけ、子どもたちが健やかに成長するための環境整備を行っていることです。アズラック難民キャンプでも、みんなが自分の力を発揮し、ほかの人と繋がりながら、子どもたちを育むコミュニティづくりを行っていました。
キャンプで暮らす皆さんと
It takes a village to raise a child.
有名な、アフリカの格言です。「子育ては、村全体の仕事」
文字通り、「Village 5」では、多くの大人たちが心を砕き、行動している様子を目の当たりにしました。住民も、ヨルダンのプラン職員たちも。子どもたちの健やかな成長のためのvillage。私も、そのvillageの一員でありたい、そして、プランの支援者の皆さまにもぜひこのvillageの一員に加わっていただきたい、と思いました。
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